医療機関の実力の差は「ラボカ」の差でもある

体外受精は、5つのプロセスのどの段階においても不具合があっては妊娠が成立しません。

そして妊娠を成立させるために大きな2つの力が働きます。

1つは言うまでもなく医師が患者を正しく診断し、治療のスケジュールを組み立て、薬などを投与するといった医師側の力、すなわち治療力です。

そしてもう1つの力は、普通の診療であれば、看護師たちが中心となる、いわば看護力です。

しかし、高度生殖医療においては、もう1つの大きな力は、看護力よりも「ラボ力」です。

ここがほかの医療と決定的に違うところです。

「ラボ力」のラボとは、培養室のことです。

卵子を培養したり、精子を調整したり、顕微授精をおこなったりする人たちが活躍する「ラボ」の力が決定的に重要なのです。

培養室で働いているのは、おもにエンブリオロジストと呼ばれる人たちです。

エンブリオロジストとは日本語にあえて訳すならば、「胚培養士」と訳せると思うのですが、こうした人たちの技術水準、スキルが体外受精の成否を決定づけているといっても過言ではありません。

農学部や獣医学部などで学問をした人が多いのですが、彼らは卵子や精子を取り扱うプロフェッショナル集団なのです。

体外受精の成績の優秀な施設ほど、こうしたエンブリオロジストは、優秀な人たちがそろっています。

ですから体外受精によって妊娠を成立させる力とは、医師の治療力と、エンブリオロジストの「ラボ力」との総合力だということができます。

こうしたラボに働くエンブリオロジストは、一般には表には出てきませんのでなかなかその実力の評価は難しいと思います。

彼らは培養器の精度管理なども入念におこなうという仕事もしています。

そして培養器の中の安定度が、体外受精の結果に大きく影響するという指摘は多くあります。

一般的な傾向として、体外受精は、それをおこなう件数が多い施設ほど妊娠率が高いという傾向がみられるのですが、その理由の1つが、いま述べたように培養器の安定性です。

熱帯魚の水槽を例にとって考えてみるとわかり易いと思います。

熱帯魚を飼う前にサーモスタットのスイッチを入れ、熱帯魚がいなくなったらスイッチを切る。

また飼い始めるときにスイッチを入れる、こうしたことをくり返していたのでは、その水槽の中の生態系はなかなか安定したものにはなりません。

実際の体外受精の培養では、二酸化炭素や、チッ素、酸素といった気体を一定の割合で培養器内に流すのですが、体外受精の件数が多い場合、そうした培養器は24時間オンの状態で稼働させています。

件数が少ないとランニング·コストという問題から、なかなかこうした対応が困難となります。

もちろん体外受精の件数が多いことだけが、単純に妊娠率に反映されているわけではありません。

先ほど示した症例のように、自然周期採卵の1個の卵子を体外受精させ、子宮に戻し,妊娠に至るというのは、極めて高い技術が必要です。

胚培養に関して私にはとても驚いた経験があります。

その方は結果的に顕微受精をおこなったわけですが、最初に通常の体外受精でも受精しなかったので、翌日顕微受精を行ったということです。

体外受精などをおこなう医師が多く知る事実として、培養器の中で1日経過したone-day-oldの卵子は、たとえそのあとで顕微授精をおこなったとしても、精子を受けつけないといわれており、妊娠は困難と考えられています。

したがって、受精しなかった卵子は廃棄されてしまうことになります。

しかしその女性においては、現実にそうした手技がおこなわれ、妊娠に至ったという事実があります。

それはその医療機関には、ほかにはないノウハウがあるのだろうと推測されます。

こうしたラボの中のあまり表に出てこない微妙な技術は、ウエット·テクニークなどと呼ばれます。

IVFLesson16・高度生殖医療の戦力は、エンブリオロジストのラボカ。

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